大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

津地方裁判所 昭和57年(ワ)239号 判決

原告

橋村幸郎

被告

奥野輝一

主文

別紙目録記載の交通事故に関し、原告の被告に対する損害賠償債務が存在しないことを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  別紙目録記載の交通事故(本件交通事故という)が発生した。なお、事故証明書には、当事者甲欄に被告、当事者乙欄に原告が記載されている。

2  本件交通事故は、被告が自動二輪車に乗車して、制限時速四〇キロメートルの道路を時速約九〇キロメートルの高速で走行中、長さ四一・九メートルの制動痕を残しながら、前方交差点を狭路より右折し終つた原告車両右側後部に一方的に衝突し、転倒、負傷したものである。衝突地点は交差点中央より約六・二メートル西方の地点であるが、原告は右衝突後、後方異常に気づき急制動のうえ停止した。

3  被告は頭部打撲・左脛骨開放複雑骨折・左大腿骨果部骨折・左膝部切傷・左大腿裂傷・右膝打撲傷・右大腿打撲擦過傷の負傷をし、事故日(昭和五五年一一月一二日)より昭和五六年四月二三日まで津市内小森病院に入院治療を受け、さらに同年四月二四日より同年七月一八日までの間、右病院に七日間通院治療を受けたが、同年七月一八日症状固定による後遺障害等級第九級相当の後遺症を残した。右後遺症の内容は、左膝関節の著しい機能障害(第一〇級一一号)と左足関節の機能障害(第一二級七号)の併合第九級である。

4  原告は最近被告より本件交通事故の損害賠償金を支払えとの請求を受けたが、本件交通事故の原因はあげて被告の高速無謀運転によるものであり、原告に責任はないから、原告は被告の請求を拒絶した。

ところで、原告は以前にも被告より本件交通事故に基づく損害賠償の請求をうけたが、賠償金の支払責任はない旨回答し、さらに昭和五六年八月二五日津簡易裁判所に被告を相手方として民事調停の申立をした(同庁昭和五六年(交)第二六号)。

右調停申立の趣旨は、不幸にも重傷を負い大きな後遺障害を残した被告から再三にわたり損害賠償金の支払請求を受けるが、原告には責任がないことを理解してもらうことにあつたが、これの理解を得られず、右調停は同年一一月一二日の第三回期日に不成立で終了した。

今回ふたたび原告は被告より損害賠償金の支払いを求められたが、原告が被告に対し支払わねばならない損害賠償債務は存在しないのでその旨の確認を求める。なお、原告車両加入の自動車損害賠償責任保険より、既に被害者請求手続によつて、被告は金一二〇万円(治療費充当)及び金五五二万円の合計金六七二万円を受領している。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実のうち、被告車が原告車に衝突し、被告が負傷した事実は認めるが、その余は否認する。

3  請求原因3の事実は認める。

4  請求原因4の事実のうち、調停の経過は認めるが、その余は争う。

三  被告の主張

1  被告は本件交通事故により頭部打撲・左脛骨解放複雑骨折・左大腿骨果部骨折・左膝部切傷・左大腿裂傷・右膝打撲傷・右大腿打撲擦過傷の重傷を負い、左記のとおりの入通院治療を余儀なくされた。

〈1〉 小森病院 昭和五五年一一月一二日~昭和五六年四月二三日

入院治療日数 一六三日

〈2〉 小森病院

通院期間 実治療日数

昭和五六年四月二四日~同年七月一八日(八六日)七日

被告は、済生会松阪病院において、右受傷に基づく左膝関節の機能障害並びに左足関節の機能障害の後遺症につき、昭和五六年七月一八日症状固定と診断され、昭和五六年九月後遺障害第九級の認定を受けた。

2  右受傷によつて被告が被つた損害は次のとおりである。

(一) 付添看護費 金四〇万八〇〇〇円

三〇〇〇円×一六三日=四〇万八〇〇〇円

(二) 入院諸雑費 金八万一五〇〇円

五〇〇円×一六三日=八万一五〇〇円

(三) 入通院慰藉料 金二〇〇万円

入院期間は約六か月、通院期間は約三か月で実治療日数は七日であるので、日弁連の基準に従い入通院慰藉料は金二〇〇万円と認めるのが相当である。

(四) 逸失利益 金一一三六万六四九四円

被告は当時調理師になるため料理学校に通学していたものであり、学校卒業後は調理師として働く予定であつたところ、前記後遺障害により調理師としての就労が著しく困難になり、労働能力の三五パーセントを喪失したから、次の計算により、被告の逸失利益は一一三六万六四九四円と算定されるべきである。

就労可能年数 四九年間 一八歳~六七歳

男子平均給与 月額一二万二六〇〇円(昭和五六年度賃金センサス)

労働能力喪失率 三五パーセント

〔計算式〕

〔(一二二、六〇〇×一二)+一一六、〇〇〇〕×(二六・三三五-五・八七四)×〇・三五=一一、三六六、四九四

(五) 後遺症慰藉料 金四〇〇万円

将来ある被告が重大な後遺障害を負い、その身体的な苦痛並びに精神的苦痛ははかりしれない。右後遺障害に対する慰藉料としては金四〇〇万円が相当である。

(六) 以上各損害の合計は金一七八五万五九九四円となる。

3  本件交通事故は、被告の前方不注意並びにスピードの出し過ぎが原因ともいえるが、原告の側においても、本件交通事故現場がカーブとなつており、また左死角となつている場所であるから充分に安全を確かめてから交差点を右折すべき注意義務があつたのに、右注意義務を怠り、慢然と右交差点を右折した過失が一つの原因であるというべきであるから、原告側の過失割合は五〇パーセントと考えるのが相当である。

4  被告は、本件交通事故に関し自動車損害賠償責任保険から傷害に関し金一二〇万円、後遺障害に関し金五五二万円を受領しているが、金一二〇万円については全て治療費に充当した。したがつて、原告が被告に対し賠償すべき金額は、被告に生じた損害合計金一七八五万五九九四円の五〇パーセントに当る金八九二万七九九七円から右五五二万円を差し引いた金三四〇万七九九七円となる。

第三証拠

当事者双方の証拠の提出・援用・認否は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、その記載を引用する。

理由

一  本件交通事故が発生したこと、請求原因2記載のとおり、被告が本件交通事故により傷害を受け、その治療のため入通院し、後遺障害が残つたこと、被告が自動車損害賠償責任保険から合計六七二万円を受領したことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  被告は、本件交通事故は原告の過失が一つの原因となつて発生した(原告及び被告双方の過失によつて本件交通事故が発生した)旨主張するが、被告の立証は勿論、本件全証拠によつても、本件交通事故につき原告に過失責任があることを認めることはできない。かえつて、原本の存在・成立に争いのない甲第五号証の二、三及び原告本人尋問の結果によると、原告は本件交通事故現場の交差点で一旦停止し、左右の安全を確認した後時速約一〇キロメートルで右折したが、被告は制限時速四〇キロメートルを遙かに超える猛スピードで右交差点に向つて道路右側を走行中、約五二・五メートル手前で原告車が交差点を右折しつつあるのを発見し、狼狽して、急制動の措置をとつたが、余りにもスピードを出し過ぎていたため、停止することができず、また原告車の右側には二・六メートルの通行可能な道路面の余裕があつたから十分通り抜けられたにもかかわらず、右折完了直後の原告車の後部に追突したものであること、すなわち本件交通事故は被告の一方的、かつ重大な過失によつて惹起されたものであり、被告の自傷行為というべきものであつて、原告には過失はなかつたことを認めることができ、右認定に反する証人米川克也の証言及び被告本人尋問の結果は前掲各証拠(特に、甲第五号証の二、三)に照らし採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  よつて、原告の被告に対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 庵前重和)

目録

一 日時 昭和五五年一一月一二日午前九時三五分頃

二 場所 津市高茶屋小森町一七二一―二先市道

三 当事者 奥野輝一(甲)

四 甲車 自動二輪車三ま八六六四号

五 当事者 橋村幸郎(乙)

六 乙車 普通貨物自動車三・四四む九八一八号

七 態様 甲車が乙車に追突

八 負傷 甲は転倒した結果負傷

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例